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TRIVE NINE

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NOVEL

イラストノベル-アダチトライブ編- 公開!

千住  「ああ!? 全然足りねぇじゃねぇか」

 

アダチトライブのリーダー・千住百太郎は、アジトで眉をひそめた。
テーブルの上にはトンカチで割られた豚の貯金箱と、中に入っていた少額の小銭が転がっている。

 

千住  「アジトん中引っ掻き回して、コレしか見つかんなかったのか?」
辰沼  「貯金してた訳じゃねぇからな。これじゃ修理どころか、タイヤの一つも交換できねぇ」

 

アダチトライブはピンチに陥っていた。
大敗という結果に終わってしまった、チヨダトライブの鳳王次郎とのゲーム——
その際に、アダチの魂とも言える大切なバイクが破壊され、使えなくなってしまったのだ。

 

千住  「そろそろ本気で金集めしねぇと」
辰沼  「確実な方法を考えないとな。前に賞金目当てでセタガヤの大会に出たときは、散々な目に遭った」
千住  「確実、か……」

 

そのとき、ガチャリとドアが開いて梅田が入ってきた。

 

梅田  「なぁ、とんかつ食いに行かねぇ?」
辰沼  「とんかつ? エターナル商店街のじーさんがやってる店か」
梅田  「おう。珍しくビラ配っててさ」
千住  「バイク直す金もねぇヤツが、呑気なこと言ってんじゃねぇよ」
千住  「次こそ王次郎に、一泡吹かせなきゃならねぇのに……ん?」

 

梅田からビラを受け取った千住は、そこに書かれている、ある言葉に目を留めた。

 

千住  「これだぁっ!」

 

ボロボロの椅子から勢いよく立ち上がり、大声を上げる。

 

辰沼  「名案でも浮かんだか?」
千住  「ああ、全員召集しろ」
梅田  「全員召集〜!? おいおい金に困ったからって強盗でもする気じゃ……」
辰沼  「まさか……」

 

千住はニヤリと笑い、続ける。

 

千住  「アダチトライブは今日から——」
千住  「全員で、バイトする!!!!」

 

千住がテーブルに叩きつけたビラには「バイト大募集!」の文字があった。

 

/////////////////////////////////////////////

 

数日後——
千住はエターナル商店街の大通りで、愛用のママチャリを懸命に漕いでいた。
彼は今、新聞配達の真っ最中。カゴと荷台には、沢山の新聞紙が積まれている。

 

千住  「……いでっ、いでででで……っ」

 

王次郎から受けた傷は、まだ癒えきっていない。痛む身体に鞭を打ち、商店街の郵便受けに新聞を突っ込んでいると、近くの古本屋から聞き慣れた声がした。

 

辰沼  「やめとけ、じーさん。腰やるぞ」
店主  「でも、こんなところに本が積み上がってたら邪魔だろう? 運ばないと」
辰沼  「俺がやる。アンタはあっちの本の整理でもしてろ」
店主  「そうかい? じゃあ、上の棚を……」
辰沼  「待て、脚立は使うな。高いところは俺が。アンタは下だ」
店主  「ふふ、いいのかい? 辰沼くん、見かけによらず優しいねぇ」

 

そこにいたのは、古本屋でバイトをしている辰沼だった。
先日様子を聞いたときは、暇で本ばかり読んでいると言っていたが、その割には甲斐甲斐しく動いているらしい。

 

客たち  「「おおお〜っ! すげ〜!!」」
千住  「ん?」

 

古本屋から数軒先。
梅田がバイトをしているとんかつ屋から歓声が上がった。店先には長蛇の列ができており、千住はその隙間から店内を覗き見る。

 

梅田  「ヒャハハハハ~!!! どうだ、オレの千切りは~~~!!!」
客A  「すごいすごい! マジ神技!」
客B  「梅田くん、キャベツのおかわり頂戴!」
客C  「よかったね、店長。彼が入ってから、大盛況じゃない」
店長  「ホント、ありがたいよ〜! まるでサーカスみたいだもんなぁ!」

 

どうやら客のお目当ては、とんかつではなく梅田の超速キャベツ千切りのようだ。
持ち前のナイフテクニックを存分に発揮できて、梅田もイキイキとしている。


千住  (アイツら順調そうだな。店の人とも上手くいってるみてえだし、このままいけば金も貯まってすぐにバイクも直せそうだ)
千住  (俺も負けてらんねぇ!)

 

仲間の活躍に触発され、千住は張り切ってペダルに足をかける。
思い切り踏み込もうとした、そのときだった。

 

老婆  「泥棒〜!」
千住  「!?」

 

突然、商店街に老婆の叫び声が響いた。
その声に反応し、千住も素早く周囲を見回そうとする。しかし、振り向こうとした瞬間、後ろから猛スピードでやってきた“何か”に自転車が接触してしまった。
ガシャンッ!!と大きな音を立て、バランスを崩した千住は自転車ごと横転する。慌てて顔を上げると、見覚えのない青いバイクが走り去っていくのが見えた。

 

千住  「痛ってぇ……! なんだ、あのクソバイク……!!」
辰沼  「なんの騒ぎだ?」
梅田  「千住!? どうした!?」


騒ぎを聞きつけ、近くで働いていた辰沼や梅田、そして商店街の人々が続々と集まってくる。

 

千住  「俺は平気だ。それより、ばーさんをみてやってくれ」
梅田  「なんだよ、ひったくりか……? ばーちゃん、怪我は?」
老婆  「だ、大丈夫よ。でも、お金が……」

 

梅田に声を掛けられ、老婆はしょんぼりと肩を落とした。どうやら、結構な額が鞄に入っていたようだ。

 

老婆  「この辺り、最近ひったくりが多くてね。なんでも、アダチトライブとかいう不良が悪さしてるみたいで」
千住辰沼梅田  「「はァ?」」

 

突然、自分たちの名前が出てきて、千住たちは固まった。
詳しく話を聞くと、ひったくり犯がバイクを使っていることから「犯人はXBでバイクを使うアダチトライブに違いない」という噂が流れているらしい。

 

老婆  「……あら。もしかしてあなたたち、アダチトライブなの?」
梅田  「おう……でも、オレたちはひったくりなんかしてないぜ!?」
老婆  「そうね、こうして心配してくれているしね……」
老婆  「間違った噂が広まらないといいけど……あなたたちも用心してね」

 

/////////////////////////////////////////////

 

梅田  「なんでオレらが辞めなきゃいけねぇんだよ!」
辰沼  「仕方ねぇだろ。これ以上、じーさんたちに迷惑かけらんねぇ」

 

『アダチトライブ犯人説』の噂は日に日に広まっていき、いつの間にか、千住たちアダチトライブのメンバーが働いている店は『ひったくり犯の店』と呼ばれ、街の人たちから白い目を向けられるようになった。

 

千住  「このまま俺らがバイトを続けると、店が潰れちまう」
千住  「世話になんのは今日までだ!全員しっかり礼言ってこい」
アダチメンバー  「「うす!」」

 

こうして、アダチトライブのメンバーは、各々のバイト先を辞めることとなった。
しかし、ここで大人しく引き下がる彼らではない。

 

梅田  「……で? 辞めたのはいいけどよ、これからどうすんだ?」
千住  「んなもん決まってんだろ?」
千住  「とっ捕まえんだよ、俺らに濡れ衣着せてきたコスい奴らをよ」
千住  「このままじゃ、腹の虫が治まらねぇ。絶対思い知らせてやる……!」
辰沼  「そうだな。ばーさんたちが取られた金も、取り返してやらねぇと」

 

そのとき、アジトの外でバイクのエンジン音が派手に鳴り響いた。
すべてのバイクが故障している今、エンジンを吹かすような奴はトライブ内に一人もいない。
千住は辰沼、梅田と目を合わせ、アジトの外へと出る。

 

そこにいたのは、ギラギラと光を照り返すレーシングバイクに跨がった不良たちだった。

 

千住  「…テメエら、なにもんだ?」
不良A  「おいおい、雑魚トライブがイキっちゃって」
千住  「…ああ゛?」

 

不良の煽りに千住はギロリと睨み返す。

 

不良B  「シティのトップ張ってるくせに、トロくせぇバイク乗ってる奴らがいるって聞いてよぉ」
不良C  「しまいには、チヨダにやられて全員重傷。自慢のバイクも使えねぇらしいじゃねえか」
不良A  「そんな時代遅れ野郎共、俺たちがぶっ飛ばしてやるよ! アンタらお得意のXBでなァ! そんでもって──」
不良A  「今日から俺たちがアダチトライブだ」

 

ブオンブオンとエンジンを吹かしながら不良たちはメンチを切ってくる。

 

梅田  「誰にケンカ売ってんのか、わかってんのかぁ?」
辰沼  「スピードの出し過ぎで、頭のネジが飛んじまったんだろ」
千住  「おめえらみてえな名もないゴロツキ、XBするまでも──」

 

言いかけたところで千住はあることに気がついた。
不良たちの乗っているバイクの中に、エターナル商店街で千住を吹っ飛ばしていった、あの青いバイクが混じっていたのだ。

 

千住  「……もしかしてお前ら、例のひったくり犯か?」

 

一瞬、沈黙が流れた。
千住の言葉に眉をひそめ、辰沼たちが不良集団を睨み付ける。
しかし、次の瞬間、彼らはケタケタと悪びれる様子もなく笑い始めた。

 

不良A  「それがどうかしたのか?」
不良B  「バイクのメンテには金がかかるからな、ジジババから小遣いもらってんだよ」
不良C  「おかげでバイクの調子は絶好調! テメエらをぶちのめす準備は万端だぜぇ!」

 

不良たちの笑い声に、千住は全身の血が沸騰していくのを感じた。それはきっと、辰沼と梅田も同じだ。

 

千住  「……いいぜ、お望み通りXBしてやるよ」
千住  「俺たちも、お前らのことを潰してぇと思ってたからなァ!!」

 

/////////////////////////////////////////////

 

千住  「俺たちが勝ったら、商店街のばーさんたちに謝って、奪った金を返してもらう」
千住  「そしてそれを最後に、二度とアダチシティに近付くな」
不良A  「いいぜ。ただし、こっちが勝ったら」
不良A  「正真正銘、今日から俺たちがアダチトライブだ!」

 

静まり返った深夜のエターナル商店街で、戦いの火蓋が切られた。
まずはアダチトライブの攻撃。いつものようにどこからともなく現れたジャッジロボが、ゲーム開始の号令をかける。

 

どうやら、不良集団はXBの経験は浅いようだ。
守備のポジション決めはグダグダ。ピッチャーの投球練習の様子を見ても全く脅威を感じられなかった。

 

辰沼  「よくアレでXBを仕掛けてきたな」
千住  「ヨユーだぞ、梅田! かましてやれ!!」

 

バッターボックスに入りながら、梅田がピッチャーを睨み付ける。
バットを構え、一球目——。
ピッチャーが投げたボールは、見るからに球威が足りていない。
いける!
そう感じた梅田は、初球から思い切りバットを振った。

 

カキーンッ!

 

狙い通りのヒット。ボールは三塁方向のアーケード奥へと飛んでいく。
細い路地をパチンコ玉のようにぶつかりながら進んでいくそれを見るが早いか、梅田は一塁に向かって走り出した。

 

梅田  「ヒャッハー! 我ながらいい当たり!」

 

梅田は全力でダッシュを決める。
普段は愛車に跨がり颯爽と駆け抜けていく道を、今夜は自分の足で突き進む。

 

梅田  「チョロ! これなら一塁だけじゃなく、二塁まで行けそう——」

 

ブオオオオンッ……!

 

梅田  「……ああ!?」

 

不良A  「ヒャハハハ、バイクがなきゃ滑稽だなぁ!」
梅田  「ゲッ……!」
不良A  「ま、バイクがあっても俺らのレーシングバイクの敵じゃねえけどな!」

 

ボールを持った不良は、レーシングバイクに乗ってあっという間にそばまで迫ってきた。必死に走って引き離そうとするが、当然バイクには敵わない。
追いつかれた梅田は不良にぶっ飛ばされ、一塁目前にしてタッチアウトになってしまった。

 

梅田  「ク……ッ、確かに素人相手ではあるけど……」
梅田  「よく考えたらヤベェぞ…… バイク無しで戦わなきゃいけねぇなんて!」

 

こうして、梅田をはじめとしたアダチトライブのメンバーは、次々と一方的にタッチアウトとなった。
攻守が交替したあとも、バントで確実にボールを前に転がし、即座にレーシングバイクに跨がって進む不良のやり口に翻弄され、まともなバトルなど全くできない。
イニングが進み、メンバーの顔に悔しさと不安が浮かんできた頃、ついに千住の打席が回ってきた。

 

不良A  「次はリーダーか」
不良B  「つっても、また徒歩だろ? あくびが出るよな」

 

軽口を叩きながら、千住の攻撃に備える不良たち。
一方の千住は、メンバーの仇を討とうと息巻いていた。

 

懐からボトルを取り出しオイルを口に含む。それをバットに吹きかけ──

 

千住  「あまりウチを舐めてもらっちゃ困るぜ……!」

 

──ためらいもなく、ライターで火をつけた。

 

千住  「俺のファイアバットで跡形もなく葬り去ってやる!」
不良C  「えっ……!? あのバット、燃えて……!?」
不良D  「どうせ見掛け倒しだ! 強がっていられるのも、今のうちだけだぜッ!」

 

そう言って、相手ピッチャーが力一杯投球する。
千住はそのボールをしっかりと捉え、燃え盛るバットを振り切った。

 

ゴオオオオオオオッ!!

 

鋭い当たり。ニヤリと笑いながら、千住はバッターボックスを飛び出す。

 

千住  「間抜け共。俺は他の奴らとは違って足があんだよ」
不良A  「ああ……!? コイツ、まさかバイク持ってんのか!?」
不良B  「くっ、油断した! おい、早くボールを──」
不良たち  「……え?」

 

しかし……不良たちが慌てる傍ら、千住が乗り込んだのはお馴染みのママチャリだった。その様子を見て、不良たちはポカンと口を開ける。

 

不良A  「えっ? あ、アイツ、自転車……?」
不良B  「……っぷ、ギャハハハハ!! マジかよ、ありえね〜!!」
不良C  「し、しかもママチャリって! 宇宙一ダセェ!!」
不良A  「わ、笑いすぎて腹いてぇ……! このバイクでお陀仏にしてやるぜ!」

 

そう言って、不良たちは笑いながらスロットルを開けた。
騒がしいエンジン音と共に、千住に向かってぐんぐん進んでいく。

 

千住  「くっ……!」

 

並みの自転車よりずっと速いが……このままではすぐにレーシングバイクに追いつかれてしまう。
千住の自転車はあっという間に囲まれてしまった。

 

不良A  「オラァッ!!!」
千住  「……っぶね!」

 

ガーンッ!!と、ボールを持った不良がぶつかってくる。
千住はなんとか衝撃に耐え、バランスを取ろうと必死になってハンドルを操る。スピードが落ちることがないよう、躍起になってペダルを漕いだ。

 

不良A  「ギャハハッ! 耐えるね〜!」
不良B  「もう一発いっとくかぁッ!」
千住  「……ッ!」

 

踏ん張る千住を面白がり何度も痛めつける不良たち。
度重なる攻撃の末、千住の身体は徐々に熱を帯び始めた。王次郎から受けた傷が開き、まるで燃えているようだ。

 

辰沼  「舐めやがって……! テメーら、ふざけんじゃねぇッ!!」
梅田  「おい、千住ッ! しっかりしろッ!!」

 

朦朧とする意識の中、仲間たちの声が聞こえる。
いよいよ目の前が真っ白になり、昏倒しかけたときだった。

 

 

 

神谷  『XBはどこにも行きやしないよ。大丈夫、君はもっと強くなれる』

 

 

王次郎  『理解できんな。勝てないとわかっていて、なぜ戦おうとするのか』

 

 

 

——いくつもの光景が、頭の中で走馬灯のように駆け巡った。
ボロボロになった千住に、手を差し伸べ、微笑む神谷。
ボロボロになった千住に、怪訝な視線と、疑問をぶつける王次郎。
それは、千住が今まで戦ってきた、二人の王者との記憶だった。

 

千住  (アイツら、本当に強かったな……。けど……)
千住  (俺だって、最後まで必死に食らいついてきた……)

 

異次元の強さを持っていた二人。
彼らと本気で戦ったことは、千住にとってある種の誇りとなっていた。たとえ実力が及ばなかったとしても、持ち前の根性で彼らに食い下がり、限界を超えて拳を交えたのだ。

 

千住  (それなのに……こんなところでくたばっていいのかよ……!)

 

千住の中に、沸々と熱いものが湧き上がってきた。
あの二人と戦ってきた自分が、こんなところで負ける訳がない。負けてはいけない。

 

千住  「……アイツらに比べりゃ、お前らなんて雑魚だ。絶対に、勝ちは譲らねぇ!!」
不良たち  「なっ!?」

 

千住の目に、炎が灯った。

 

千住  「うおおおおおおおおっ!!!!!」

 

ありったけの力を込めて、千住はペダルを踏み込んだ。レーシングバイクを振り切り、物凄いスピードで一塁を通過していく。
その姿を見て、ベンチにいたアダチトライブメンバーはワッと歓声を上げた。

 

不良たち  「そんな……嘘だろ!?」

 

一方の不良たちは、バイクを追い越し、スピードを上げていく千住の後ろ姿を見て唖然としていた。
しかし、すぐにハッとしてスロットルを全開にする。

 

不良B  「クソが……速さでは俺たちの方が上だ!」
千住  「わかってねぇな。この街では、俺の相棒が一番なんだよ!」

 

二塁を目指して、千住のママチャリと、沢山のレーシングバイクが激しい競り合いを繰り広げる。

 

梅田  「すげぇ! 千住のヤツ、バイクと同じくらい速いってことか!?」
辰沼  「確かに速い。が……それだけじゃない」
辰沼  「エターナル商店街は、かなり入り組んでるからな。スピード重視のレーシングバイクとは——」

 

キキキーッ! ガシャーンッ!!

 

辰沼の言葉を遮り、急ブレーキと衝突音が鳴り響いた。
見ると一台のレーシングバイクが、スピードを出しすぎて路地に入ることができず、壁に激突している。それに釣られるように、他のバイクも次々とバランスを崩し、転倒し始めた。

 

辰沼  「……レーシングバイクとは、相性が悪いんだ。最大の武器であるスピードを上げれば上げるほど、走行の難易度が上がっていく」

 

そうこうしているうちに、千住はサッと二塁、三塁を駆け抜けていった。
不良たちは、既に半数以上が脱落。残っているメンバーも、細い路地を曲がり続けるためにスピードを上げられず、焦燥感に駆られている。
そんな中、千住のすぐ後ろを走っていた不良がパッと顔を明るくした。

 

不良A  「直線だ! ここで勝負を決めるぞッ!」

 

本塁に向かうラストスパート。
真っ直ぐに続く舗装された道は、不良たちにとっては最後のチャンスだ。

 

千住  「ここまで着いて来られたのは褒めてやる。けどな……」
千住  「コイツで終わりだ!!!」
不良たち  「!?」

 

千住は懐からボトルを取り出し、今度は自分の自転車にオイルをぶちまけた。
謎の行動に戸惑う不良たち。
そんなことはお構いなしに、千住はサドルから腰を持ち上げ、前のめりになって立ち漕ぎを始めた。

 

千住  「行くぜえええええええええええええっ!!!!!」

 

今までになく速度を上げていく自転車。高速で回転するペダルに、今にもチェーンが引きちぎれそうだ。
そのとき——!

 

不良A  「な、なんだ!?」
不良C  「煙……いや、火が出てやがる!!」

 

高速回転によるタイヤの摩擦で、自転車は煙をあげ、ついには炎に包まれた。
燃え盛る炎を纏った愛車を乗りこなし、千住は不良たちに向かって叫ぶ。

 

千住  「テメェらとは度胸が違うんだよ!」
千住  「じーさんばーさんから金を奪うような雑魚共は、俺のファイア立ち漕ぎで一掃してやる!」
不良たち  「く、くっそぉぉおおお!!!!!」


ジャッジロボ  「そこまで! 相手チーム再起不能のため、アダチトライブの勝利!」
アダチトライブ  「よっしゃーっ!!」

 

千住の活躍により、アダチトライブは無事、勝利を収めたのだった。

 

/////////////////////////////////////////////

 

千住  「こいつらが犯人。で、こっちがこいつらから回収した金だ」
商店街の人々  「は、はあ」

 

XBが終わり、千住たちアダチトライブは、不良たちを引き連れてエターナル商店街を訪れた。
商店街の人々はしばらくの間ポカンとしていたが、不良たちが頭を下げて帰って行くのを見て、ある者はサーっと顔を青くし、またある者は胸を撫で下ろしていた。

 

おじさん  「ひったくり犯はアダチトライブじゃなかったのか。俺は酷いことを……」
おばさん  「言ったじゃない! この子たちは、そんな悪い子じゃないって!」

 

アダチトライブのメンバーに向かって、口々にお礼を言い出す商店街の人々。そんな様子に、トライブメンバーはどこか居心地が悪そうだ。
そのとき、千住たちのもとへ、例のひったくりに遭った老婆と古本屋の店主たちがやってきた。

 

老婆  「ありがとう。私たちのお金、取り戻してくれたのね」
店主  「君たちが犯人じゃないとわかっていたのに、守ってあげられなくてすまなかった…」
辰沼  「別に。疑われたままなのが癪だっただけだ」
梅田  「アンタたちのためにやった訳じゃねぇし。な、千住?」
千住  「お、おう。変な勘違いすんじゃねぇ」

 

照れ隠しのようにそっぽを向くアダチトライブメンバーを見て、老婆たちは微笑んだ。
それから、声を大きくして商店街の人々に呼び掛ける。

 

老婆  「ねぇ、みんな。この子たち、バイクが壊れて困っているそうなの」
店主  「ワシらで何か力になってやれないだろうか? エターナル商店街を守ってくれた、せめてものお礼として」
千住  「は?」

 

老婆たちの提案を聞いて、商店街の人々は一斉に目を輝かせる。
ヨシ! と言って各々が自分の店に帰ったかと思うと、すぐに工具やらお菓子やらを持って戻ってきた。

 

おじさん  「バイクいじりには自信があるんだ! 任せとけ!」
おばさん  「バイクのことはわからないけど……修理の間、お菓子でも食べて待ってなさい! ほら、おいしいお茶もあるから!」
老人  「これからも、何かあったらアダチシティを頼むよ!」
千住  「はあ!? 頼むも何も、俺たちは……」

 

商店街の人たちは千住の話を聞きもせず、バイクを修理するためアダチトライブのアジトに向かい始めている。

 

千住  「ったく……」

 

俺たちは……ただ、XBがしたいだけだった。
自分たちが暮らすアダチシティで、慣れ親しんだエターナル商店街で。
大好きなバイクに乗って、大切な仲間たちと一緒に。
けれど、今それを言ってしまうのは、少しだけ野暮なような気がした。

 

千住  「……今はバイクが必要だ! 遠慮はしねぇぜ! そして——」
千住  「次こそ王次郎をぶっ倒すぞ!!」
アダチトライブ  「「おうっ!!」」

 

エターナル商店街に、血気盛んな声が響く。
熱い想いで支えてくれるシティの人々に見守られながら、アダチトライブ完全復活の日が近付いていた。